僕の人生にとても影響を与えた本の一つに、ベストセラーの『嫌われる勇気』があります。

この本で紹介されている「アドラー心理学」の考え方は、とても新鮮で、なおかつ腑に落ちる教えでした。

著者の岸見一郎先生はアドラーの教えに従って息子さんを育てられたようで、僕も子どもの教育に活用しています。

ただ、気になる点がひとつだけあります。

それは「褒めない」教育です。

『嫌われる勇気』の中で、哲人はこう言っています。

アドラー心理学では、子育てをはじめとする他者とのコミュニケーション全般について「ほめてはいけない」という立場をとります。

無論、体罰はもってのほかですし、叱ることも認めません。ほめてはいけないし、叱ってもいけない。それがアドラー心理学の立場です。

ほめるという行為には「能力のある人が、能力のない人に下す評価」という側面が含まれています。夕飯の準備を手伝ってくれた子どもに対して「お手伝い、えらいわね」とほめる母親がいる。しかし、夫が同じことをした場合には、さすがに「お手伝い、えらいわね」とはいわないでしょう。

われわれが他者をほめたり叱ったりするのは「アメを使うか、ムチを使うか」の違いでしかなく、背後にある目的は操作です。アドラー心理学が賞罰教育を強く否定しているのは、それが子どもを操作するためだからなのです。

誰かにほめられたいと願うこと。あるいは逆に、他者をほめてやろうとすること。これは対人関係全般を「縦の関係」としてとらえている証拠です。あなたにしても、縦の関係に生きているからこそ、ほめてもらいたいと思っている。アドラー心理学ではあらゆる「縦の関係」を否定し、すべての対人関係を「横の関係」とすることを提唱しています。ある意味ここは、アドラー心理学の根本原理だといえるでしょう。


哲人の言いたいことはよくわかります。

実際自分の子どもにも褒めない教育をすることで、良好な人間関係が築けています。子どもからしてみれば初めは褒めてもらいたくて不服だったのでしょうけれど、最近では承認欲求もなくなりつつあるように見えます。

一方、発達障害の子どもたちに対して「応用行動分析(ABA)」という手法が有効であることが知られています。

これは、適切な行動をとったときに、ほめることでその適切な行動を定着させる療育です。これを積み重ねると、結果的に身辺自立を促し、社会性の醸成に役立ちます。不適切行動の抑制にもつながります。

この方法のポイントは「ほめる」ことです。応用行動分析に限らず、「ほめる」ことは教育の場で一定の効果があるものとして認知されています。しかしながらアドラー心理学でいう「縦の関係」をつくってしまう危険性は多分にあります。

ところで重度の知的障害の子どもたちは、中学、高校と進んでも、脳の発達の程度はほとんど赤ちゃんのままです。言葉を発することができず、良い悪いの区別がついていない子が多いのです。

そういう子どもたちに対しては、適切な行動をとった時はほめ、不適切な行動をとった時には叱ることで、物事の善し悪しをきちんと教えた方がいいのではないかと僕は思います。

教師と教え子をアドラー心理学でいう「横の関係」としながら、なお「ほめる、叱る」教育をするというのは、論理的に矛盾しているし実践するのも難しいものです。

ここ最近僕がとても気になっているところです。

皆さんはどう思われますか?